川久保亮利さんが語る、アフリカの手しごとと空間がつなぐ未来

シリーズ第4回のゲストは、喫茶雑貨「moja」 店主 川久保亮利さん。
今回お話を伺ったのは、「moja」を営む川久保さん。大学卒業後、雑誌編集や服屋勤務を経て、アフリカへとたどり着き、2016年にお店をスタート。いまでは9年目を迎え、全国からお客さんが訪れる人気店に育っています。

川久保 亮利(かわくぼ あきと)
「moja」 店主
神戸市在住。大学卒業後、雑誌編集やアパレル業界を経て、西アフリカへ渡航。現地の仮面や民芸品に魅了され、独自に買い付けのルートを開拓。2016年、神戸・元町にアフリカの民芸や手しごとの魅力を伝えるお店「moja」をオープン。現在はお店の運営に加えて、ギャラリー運営や写真撮影、イベント企画なども手がけ、空間を通じて遠くの手しごと日々の暮らしをつなぐ活動を続けている。

神戸 ・元町の一 角 に佇む「moja」。そこに足を踏み入れると、アフリカの土の匂いや空気感がふわりと漂ってくるような感覚に包まれます。手しごとの温もりが宿る籠や仮面たち、そして静かにそこにある空間が、確かな物語を語りかけてくれる――。

「好き」を追いかけて、アフリカへ

― もともとアフリカの民芸品に興味を持たれたきっかけは?

川久保さん:
大学卒業の頃にフランスを訪れた際、アフリカのお面に出会って、それがすごくかっこよくて。そこからアフリカの仮面を集めるようになりました。大学を出たあと、少しだけ雑誌編集の仕事をしていたんですが、もともとファッションがすごく好きで。その後、服屋で働くようになり、多忙な毎日の中で「自分の店を持ちたい」という思いがどんどん強くなっていきました。ちょうどその頃、アフリカの仮面や手しごとの民芸品を扱うアンティークショップをやれたらと考えるようになって。アフリカで直接買い付けるお店ってあまりなかったので、ニッチな分野で勝負できるかもしれないと思ったんです。

― 最初の買い付けはどうやって実現されたのですか?

川久保さん:
最初は完全にゼロからのスタートでした。アフリカって広いので、どこに行けば自分の好きなものに出会えるのか分からなくて。とにかく調べた末に、京都の大学の教授が西アフリカに行っているというブログを見つけて、その中で紹介されていた現地の骨董商の男性に連絡を取ってもらったんです。そのご縁からブルキナファソへ渡ることになりました。外務省の危険度マップでは危険な地域だったんですけど、実際の様子は行ってみないと分からないし、何より「好きなものを買いたい」という気持ちが勝っていたので、不安もありながらも思い切って飛び込みました。

妻と二人三脚で始めた「moja」

― お店はどんな経緯で始められたんでしょう?

川久保さん:
妻の両親が元町の商店街で喫茶店をしていたんですが、ちょうどその店をたたむタイミングで「一度ここでやってみようか」と、妻と一緒に始めたのが「moja」の始まりです。最初の店舗は広さも限られていたので在庫の置き場所に困ることも多くて。そこから現在の場所に移転して、いまで7年目になります。

アフリカの「手しごと」と、日本の暮らしをつなぐ

― お店のコンセプトについて教えてください。

川久保さん:
西アフリカを中心に、現地の人たちが手作業でつくった民芸品を仕入れて販売しています。大量生産ではない、時間と技術と気持ちが込められた一点もの。そこに宿る“手しごとの魅力”を、日本の暮らしの中にも届けていきたいと思っていて。
実際に現地で買い付けをしたときの話や、作り手の背景を、妻やスタッフとも共有して、お客さんにもなるべく伝えるようにしています。「アフリカまで行くのにどれくらいの時間がかかるの?」「どんなところで、どんなふうに仕入 れているの? 」って、お店でたくさん質問していただけるのも嬉しくて。そうしたやりとりも、この仕事の醍醐味のひとつです。

ガーナ・ボルガタンガ――歌声にあわせて籠を編む人々

― 仕入れ先との関係も、やはり大切にされているんですね。

川久保さん:
そうですね。「この人から買いたい」と思えるかどうかを、すごく大切にしています。現地では、フランス人のディーラーから買うこともありますが、できるだけアフリカの人たちと直接や
りとりをしたい。
以前、ある取引相手から「やっと家にクーラーがついたよ!」って嬉しそうに連絡が来て。そのとき、この仕事が少しでも誰かの暮らしの力になれてるのかもしれないって思って、すごく嬉しかったですね。

― 買い付けのなかで、印象的だったことはありますか?

川久保さん:
なんて言 えばいいんでしょうね……ほんと、すごく感慨深い気持ちになる瞬間があって。アフリカの、土ぼこりが舞うような場所で買い付けた置物や仮面が、何千キロも離れた日本のお客さんの綺麗なリビングに飾られている。その光景を見たとき、なんとも言えない気持ちになるんです。絶対に出会わないはずだった“もの”と“空間”が、ひとつの場所で結びついている。その不思議さや嬉しさを、どうしてもアフリカの人たちにも伝えたくて、僕は飾られた様子の写真を撮って送るんです。「こんなふうに、日本で大事にされているよ」って。

コートジボワール・セヌフォ族が大切にしてきた古いスツール

― ギャラリースペースについてもお聞かせください。

川久保さん:
もともとは在庫を置くための倉庫が欲しくて借りた場所だったんですが、たまたまギャラリースペースが付いていて、学生さんの卒業制作展やポップアップイベントなどに貸し出すようになりました。作家さんや学生さんとのつながりが増えて、mojaとはまた違った意味で「ものづくりの熱」が集まる場所になっていると思います。

JR元町駅から徒歩2分、シンプルな空間に、多彩なジャンルが響きあう「Pili gallery」

写真、ディスプレイ、そして「暮らしの想像力」

― インスタグラムの写真がとても魅力的ですね。

川久保さん:
写真は昔から好きで、カメラにもこだわっています。店内のディスプレイを考えるときも、「おうちでこう使ったら素敵だろうな」というイメージが湧くように心がけていて。写真の構図も、そこを大事にしています。実際、お店には「インスタで見てやっと来れました!」という方も多くて。空間そのものに会いに来てくれるような感覚があって、すごく嬉しいですね。

子どもたちへのメッセージ

― 最後に、未来を生きる子どもたちへメッセージをお願いします。

川久保さん:
「好きなこと」は、やってみないと分からないことがたくさんある。だからまずは、自分の目で見に行ってほしいです。聞くのと、見るのは全然違う。興味を持った場所があるなら、足を運んでみてください。そして、できれば言葉も自由に扱えるようになってほしい。一つの道具として、それが世界を広げてくれるはずです。僕もこれからは、買い付けじゃなくて、「写真を撮るためだけの旅」がしてみたい。そしていつか、写真を撮ることも仕事になるといいなと思っています。

ブルキナファソ――藍染の布をたたむ子どもたちの手と笑顔


moja
〒650-0022
神戸市中央区元町通2-4-6 2F
OPEN 11:00〜CLOSE 19:00
定休日:水曜
Instagram @moja_kobe
https://online.moja-kobe.com


「○○さんと住育を考える」シリーズ

このインタビューシリーズは、“空間を大切にすること”の意味を、いろんな視点から見つめてみる企画です。建築、教育、ものづくり、暮らし……それぞれの分野で活躍されている方々に「空間」についての思いを伺い、日々の暮らしのなかにある”住育のヒント”を、一緒に見つけていきます。すみかを大切にすることは、自分自身を大切にすること、そして、生きる力をそっと育ててくれる。そんなメッセージとともに、お届けしていきます。


住育ってなんだろう

「自分の“すき”がつまった空間」を育てることは、子どもの“生きる力”を育てることにつながります。空間は、ただの場所ではなく、心と深くつながっているもの。子どもたちが、自分の空間に愛着をもち、その空間を通して「自分を大切に思う気持ち」を育てていく——それが“住育”の考え方です。

Juuikubooks
“すみかを大切にすることは、こころを大切にすること。”そんな想いから生まれたプロジェクト、Juuikubooks(ジューイクブックス)。絵本や読みものを通して、子どもたちとその周りの大人たちが、「空間を育てる楽しさ」に出会うきっかけを届けています。
HP http://juuikubooks.jp Instagram @juuikubooks

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