シリーズ二回目のインタビューは、元看護師の車椅子ユーザー 三井 和哉さんです。
看護学科・作業療法学科非常勤講師、ユーチューバーとしても活躍される三井さんに、
「人生の変化」と「空間との関わり」について語っていただきました。
三井 和哉(みつい かずや)
事故による脊髄損傷により、20代で車椅子ユーザーとなる。
現在は、事務職として働きながら、教育現場での講演やYouTubeでの発信など、幅広く活躍中。看護師・保健師の資格を持つ「医療者」と、車椅子ユーザーの「患者・当事者」、2つの視点から見える強みを活かし、様々な情報を発信している。
学生に向けて、実践を通して講義を行う三井さん。
今回の「○○さんと、住育を考える」は、元看護師の車椅子ユーザー、 三井 和哉さんです。
三井さんは、「医療者」と「患者・当事者」の2つの視点から、教育現場での講演やYouTubeでの情報発信をされています。
これまでの三井さんの人生で経験した「空間との関わり」について、聞いてみたいと思います。
「まず、三井さんについて、教えてください」
僕の幼少期は、どちらかと言うと運動神経が良く、中学校から始めたバスケットボールでは、
全国大会に出場するほど、活発なタイプの子どもだったと思います。
運動中のケガを通して理学療法士さんと出会い、医療業界に興味を持ちました。
そこから看護師を目指し、看護師と保健師の免許習得後、病院に就職しました。
そんな中、20代前半で事故により脊髄損傷を負い、車椅子ユーザーとなりました。
「突然の事故により、ご自身の体が自由に動かなくなった時は、どのような心境でしたか?」
受傷までは「医療者」という立場で働いていた自分が、急に「脊髄損傷を負った患者」という立場になり、その現実を受け入れるまでに時間もかかりましたし、塞ぎ込んでしまう時期もありました。
正直、心はボロボロで辛い時期でした。事故から1年7ヶ月後、僕は自宅に退院しました。
「退院後、車椅子ユーザーとしての住まいの空間は、どうでしたか?」
退院後は、実家に帰宅しました。僕の事故後、車椅子でも生活ができるようにと、両親が実家をリフォームしてくれました。
僕の部屋として、リビングに通ずる扉の先に、部屋を増築しました。
親心としては、何かあった時にすぐに気配がわかるように、リビングから見渡せる場所に…と思ってくれたのだと思います。
ただ、精神的にも塞ぎ込んでしまっていた僕にとって、扉一枚向こう側に、
常に誰かの気配を感じること、誰かの声が聞こえることは、とても苦痛に感じていました。
実家での生活は、常に誰かが何かをしてくれる。
外に出なくても、どうにかなる。
その環境から、家に引きこもる時期が1年程続きました。
「外に出るきっかけは、何だったのでしょう?」
色んな事が重なり合ったと思います。
ある出会いをきっかけに、看護師としてクリニックで仕事を再開することになりました。
また、家族の手厚いサポートが受けられない状況になり、自立を目指すしかない環境となりました。そして、「一人暮らし」を目標に、動き始めました。
「一人で暮らすメリットとリスク、両方ありますよね?」
脊髄損傷患者・車椅子ユーザーが一人で暮らすというのは、とてもリスクが大きいです。
何かあった時、助けてくれる人はすぐそばにいません。
なので、一人暮らしに向けて、それまでお世話になっていた病院のリハビリ療法士さんに、細かく色んな事を相談し、一人で暮らす環境を整えました。
排泄・入浴・洗濯、日常的な動線や、医療ケア・ヘルパーさんとの関わりなど、改修する場所、工夫する場所などを整えました。
実際に一人暮らしを始めた後も、様々工夫し、改善していきました。
大変な覚悟と準備でしたが、それでも、一人で暮らすというのは快適なものでした。
誰に気兼ねすることなく、自身の快適さのために、環境を整えることができる。
一人になりたい時に、一人になることができる。
「自立している」という自信を持つ。
心のメリットは、かなり大きいように思います。
「ご結婚を機に、戸建て住宅を建てられたと伺いました。
マイホームを建てる際に、どのような配慮をされたのでしょうか?」
まず、僕の空間と、家族の空間を分けることを考えました。
僕は毎日、ヘルパーさんが日常のお手伝いに来てくれます。
「他人が自分の家へ来る。」という日常が、家族の負担にならないように、僕が使うトイレ・洗面・お風呂・寝室・出入り口に至るまで、全て一つの空間で完結できるように設計してもらいました。
家族の過ごす空間から独立した、僕専用の居住空間を作ることで、ヘルパーさんと家族が直接顔を合わせずに済むよう考えました。
毎日のことですから、やはり負担になって欲しくはないからです。
家を建てる事が決まり、色んな建築士さんにお話を聞く中で、こんな話がありました。
プラン提案の際に、「あなたは車椅子なので、将来絵を描く部屋が必要かと思い、ここに作りました。」と提案されました。
僕は、絵は描きません。笑
少なくとも、今の僕には、その部屋は必要ない。
自分が必要としている空間は、自分にしか分からないんだな。と思う経験でした。
「車椅子ユーザーになられた後に、<ご実家→マンションでの一人暮らし→家族と暮らす戸建て住宅>と空間が変化していますが、その変化に対して、今感じることはありますか?」
空間や環境を整えることで、自分のできることが広がります。
「できるようになりたい。」という気持ちが、空間を変えていったのかもしれません。
そして、「できるようになった」という自信が、人生を変えてきたのかもしれません。
僕の周りには、僕の「自立」へ向けて、相談を聞いてくれる環境がありました。
リハビリや生活の質を上げたい時は、療法士さん。
身体にあった住空間を作りたい時は、建築士さん。
この相談できる環境があることが、本当に大きかったと思います。
他にも、たくさんのつながりの中で、僕の人生は動いているなと感じています。
脊髄損傷を負い、車椅子ユーザーとなった今も、医療学生に向けた講義、YouTubeでの発信などの活動を通じて、つながりはどんどん広がっているなと思っています。
「最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。」
<実家→マンションでの一人暮らし→家族と暮らす戸建て住宅>と「生活する空間」だけではなく、同時に「一緒に暮らす人」も変わっていくという経験をしました。
家族に障害のある方がいると、どうしてもその障害のある方を中心に、生活する空間を作っていくと思います。
作った空間が「一緒に暮らす健常者」にとって過ごしにくかったり、何かを我慢しながら生活を続けなければならないと、家族全員にとってその生活は苦しいものになったり、長く続かないことにつながってしまうと思います。
そのため、障害のある方が生活する空間を作る時は、「一緒に暮らす健常者」のことも考えながら、建築士さんなどに要望を伝えてもらいたいと思います。
障害のある方ではない家族の方は、我慢や遠慮せずに、自分の思っていることを伝えてほしいです。
今回、インタビューを受けるという機会をいただくことで、改めて「住居と環境」について考えることができました。
ありがとうございました(^^)
「○○さんと住育を考える」シリーズとは…
「〇〇さんと、住育を考える」シリーズは、「空間を考えることの大切さ」を伝えるためのインタ ビュー記事です。 空間を大切にすることで何が変わるのか、空間づくりはなぜ必要なのか、そして、空間について自身が感じることなど、あらゆる分野の方のお話を聞いてみたいと思います。
住育ってなんだろう
住まいの教育=住育 Juuikubooksでは、「住まい」=「すべての空間」と考えています。 食育やお金の教育のように、空間の大切さを知ることは、人生においてとても重要です。 日本では、あまり着目されてこなかった空間の重要性について、住育絵本などを通して知り学び、空間を考える力・考えた空間を表現していく力をつける事を目的としています。 その力はきっと、人生をより豊かで、彩りあるものに変えていける。 そんなメッセージを込めて、住育活動を行なっています。
Juuikubooks
絵本でつなぐ、住育と未来📕
絵本って、子どもも大人も、みんな手にとりやすく、伝わりやすいよね。
そんな発想から、住育を伝える絵本を作っています。
HP http://juuikubooks.jp Instagram @juuikubooks
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