シリーズ三回目のインタビューは、文筆家・編集者の藤井 久子さんです。 コロナ禍のフルリモートワークをきっかけに、家族全員で神戸市から屋久島へ短期移住をされている藤井さんご一家の様子について、語っていただきました。
藤井 久子(ふじい ひさこ)
文筆家・編集者
1978年生まれ、兵庫県神戸市出身。編集プロダクションに約10年勤めたあとフリーランスに。 20代半ばで屋久島へ行ったのをきっかけにコケに興味が湧き、 独学でコケを学ぶ。岡山コケの会、日本蘚苔類学会会員。 著書に『コケはともだち』(リトルモア)、『知りたい 会いたい 特徴がよくわかるコケ図鑑』、 『コケ見っけ! 日本全国もふもふコケめぐり』(家の光協会)。 コケのほかにも食や有機農業分野の取材・執筆なども行う。
HP https://mossradio.amebaownd.com/
『コケ見っけ! 日本全国もふもふコケめぐり』
(家の光協会)
今回の「○○さんと、住育を考える」は、現在ご家族で屋久島に短期移住をされている、文筆家・編集者の藤井久子さんです。 藤井さんご一家の短期移住生活の様子や、移住に至るまでのお話を聞いてみました。
「まず、藤井さんご一家について、教えてください」
わが家は、システムエンジニアの夫、フリーランスで文筆・編集業をしている私、そして小学生と幼稚園児の男児2人がいる4人家族です。普段は兵庫県神戸市内に暮らしています。
2019年末から夫が転職活動をしている最中にコロナ禍に入り、IT業界は一気に業務のリモート化が進みました。とくに「フルリモート勤務」が可能な会社であれば、遠方からでも働くことができ、転職活動の末、夫は神戸にいながら東京のIT関連の会社に就職しました。夫の同僚たちも首都圏の人ばかりではなく、他の地方から、なかには海外からフルリモートで働いている人もいました。
つまり、仕事ができるインターネット環境が整ってさえいれば、どこででも働きながら暮らすことができる。私はもとよりパソコンを使った在宅仕事です。「それなら、今の仕事を続けながら、ただ純粋に自分が『住んでみたい』と思う場所に移り住んでみるのもいいのでは。一度きりの人生、そんな思いきった選択をしてみるのもありかな…」と、ふと思いついたのです。
では、どこに住みたい? 瞬時に頭に思い浮かんだのは、現地の美しいコケに魅せられて過去7回ほど旅行で訪れていた世界自然遺産の島・屋久島(鹿児島県)でした。
夫に提案してみると、二つ返事で賛成。とくに子どもたちには幼少期のうちにダイナミックな自然の中でたくさん遊んでほしい、多様な価値観や人の生き方に触れ、見聞を広めてほしいというのが、私たち夫婦の共通の願いとしてありました。また、屋久島に移ると両方の実家からは遠くなりますが、いまのところ両親たちが元気であることも 移住の後押しになったと思います。
屋久島は台風がよく通過して停電が多いと聞いていたので、今回は台風が少ない春から夏にかけての約5か月間の「短期移住」をしてみることにしました。夫の会社にも相談したところ、わりとすぐに許可が下りて、2023年春から屋久島に移り住みました。最初に夫に相談してから約4か月後のことでした。
「実際に移住した屋久島は、どんな環境なのでしょう?」
屋久島で借りた家は、建築面積は神戸の家よりも狭い平屋なのですが、目の前には海が広がり、背後にはモッチョム岳(標高940m)がそびえるという、最高の眺望です。
また、外灯はどの集落も最小限におさえられているので、夜の闇がしっかりと感じられて、夜空に満点の星空を眺めることができます。 アスファルトが少なく、土の地面が多いので植物や虫も多く、彼らの息づかいが聴こえてきそうなくらい身近です。こうした環境の中にいると人間はしょせん地球上の生き物の一種で、他の生き物と等しく自然の中で生かされている存在なのだと実感します。子どもは外で遊ぶ時間が格段に増えて体力もつき、日ごとにたくましくなっています。
また、子どもの小学校やこども園、地域を通じて私や夫にも多くの出会いがありました。屋久島は以前から移住者が多いので、新規移住者を優しく受け入れてくれる雰囲気があります。子どもの小学校のことなどでも、わからないことはすぐに教えてくれたり、相談にのってくれたりと、とても親切にしていただいています。小さな島で人口も限られているので、もともと皆で助け合って生きていくことが文化として根付いているのでしょう。私たちも学校行事や地域の清掃活動に参加するなど、地域の一員ということを意識して、積極的にかかわるようにしています。
不便なことを挙げるとすれば、天候不良などで交通機関が欠航した時でしょうか。とくに大型船が欠航になると鹿児島市内から運ばれる食料が届かなくなるので、スーパーマーケットの生鮮品の棚は欠品だらけになります。あとは、医療機関が少ないのも離島ならではの不便さです。おかげで食材の備蓄や、事故や災害等の危険を予知する癖がつくようになりました。
「これから未来を生きていく子どもたち、またそのご家族へ、メッセージをお願いします。」
私は屋久島に暮らし、さまざまな新しい体験や人との出会いがあったことで、自分の生き方をこれまでになく深く考えるようになり、今後の仕事の方向性や人生の中でチャレンジしたいことがより明確になりました。また、緑豊かな環境に身を置いていると気持ちがリラックスし、必要以上に肩に力を入れず仕事に取り組めるようにもなったと思います。
長男は「おかあさん、神戸だけじゃなくて屋久島も僕の故郷だよ」 と言うようになり、ここで過ごした日々が子どもたちにとっても一生の思い出となって、この先の彼らの人生に活きていくのだろうと感じています。
どんな環境・空間で暮らしたいかを考えること、そして実際に環境・空間を変えてみることは、自分の生き方そのものを見つめなおすことと同義なのだと今回、短期移住をしてみてよくわかりました。
職種にもよりますが、これからさらに日本人の働き方が変わり、情報通信もより便利になって、近い将来は「地方移住」「二拠点生活」 「ワーケーション」なども、いっそう当たり前のものになっていくはずです。自分の居場所の選択肢を増やし、もっと柔軟に人生をデザインできる人が増えたら、世の中はいまよりもっと面白くなるのではないかと思います。
「○○さんと住育を考える」シリーズとは…
「〇〇さんと、住育を考える」シリーズは、「空間を考えることの大切さ」を伝えるためのインタ ビュー記事です。 空間を大切にすることで何が変わるのか、空間づくりはなぜ必要なのか、そして、空間について自身が感じることなど、あらゆる分野の方のお話を聞いてみたいと思います。
住育ってなんだろう
Juuikubooksは、「住育=住まいの教育」と定義しています。ここでの住まいとは家だけに留まらず、私たちが日常的に過ごす全ての空間を捉えます。 食育や金銭教育と同じ様に、空間の大切さを知る住育は、人生においてとても重要です。日本であまり着目されてこなかった「空間の重要性」について、 住育絵本などを通して知り学び、空間 を考える力・考えた空間を表現していく力をつける事を目的としています。 その力はきっと、人生をより豊かに、 彩りあるものに変えていける。そんな メッセージを込めて、住育活動を行 なっています。
Juuikubooks
絵本でつなぐ、住育と未来📕
絵本って、子どもも大人も、みんな手にとりやすく、伝わりやすいよね。
そんな発想から、住育を伝える絵本を作っています。
HP http://juuikubooks.jp Instagram @juuikubooks
コメント